海は変わった。仕事はどうだ 『三陸水産イノベーションサミット』 開催!

海は変わった。仕事はどうだ 『三陸水産イノベーションサミット』 開催!

地球の約70.8%を占める海。その広大な海には、微生物から大型の魚類、哺乳類まで膨大な種類の生物が生息し、多くの陸上の生き物をも支えています。

古より人類の食を支えてきた水産業も、そのひとつ。海には多数の漁場がありますが、その中でも漁獲量も多く優良な三大漁場と呼ばれているのが、ノルウェー沖、カナダ・ニューファンドランド島沖のグランドバング。そして、三陸・金華山沖です。

 三陸・金華山沖は、親潮(寒流)と黒潮(暖流)がぶつかり合う潮目で、しかも海の間近まで山地が迫るリアス式海岸の地形です。そのため、森のミネラルを多く含んだ水が海に流れ込むなど、環境上の様々な好条件が重なり世界三大漁場の一つに数えられるまでの良好な漁場を形成しているのです。

しかし、三陸特有のリアス式海岸は幾度も災禍に見舞われてきました。

中でも2011年の東日本大震災では、三陸沿岸の漁港の多くが津波にのまれるという困難に見舞われました。壊滅的な打撃を受けた三陸の水産業ですが、その中で新たな連携や先進事例も生まれ、荒波を乗り越え、新しい潮流を捉えようとしています。

10月末4日間にわたり、水産業の中でも水産加工業等を対象に、新たな事業モデルの開発や経営システムの構築など事業革新の場と支援を目的とする「三陸水産イノベーションプロジェクト」(主催:経済産業省、東北経済産業局、フィッシャーマンジャパン )の一環として、「三陸水産イノベーションサミット」がオンラインで開催されます。

 本事業は、三陸の水産事業者が中心となり、三陸を「世界一、水産イノベーションが起こる地に」するために開催する、未来志向型イベントです。

 でも……、
三陸のイノベーションが起こる地に? 未来志向型イベント? 

その目指すところについて、フィッシャーマン・ジャパンの松本裕也と、フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングの土合和樹が解説。サミットでもプレゼンテーションを行う事業者の中から、参加者の声も数名ご紹介します。

 

水産業は先細りなの……?!

東北の水産業が震災前から抱えていた課題として、①魚市場の水揚げ低下 ②人口減少に伴う人手不足 ③魚食消費の低下がありましたが、これらは、震災を経て、より顕在化されたと言います。

右肩下がりのこの状況は予見できていたにもかかわらず、震災前より大規模な機械を導入し再建した水産加工会社もありました。結果的に思うように稼働できず、経営が悪化する会社も出ています。

フィッシャーマン・ジャパンの松本裕也は、「フィッシャーマン・ジャパンでは、漁師の担い手事業のほか、石巻市内の水産加工会社の経営や組織運営、人材育成についてサポートする事業も行っています。三陸の水産業は新しい挑戦をしようとしている企業も多く、冷凍庫ひとつとっても最先端のものが入っています。イノベーションや、先端の水産業に取り組むには結果的に良い条件になっています」と、震災後の三陸の水産業が新しく動き出す機運にあると感じています。

三陸水産イノベーションプロジェクトの第1弾として実施した「水産イノベーションキャンプ(以下、キャンプ)」には、岩手県や宮城県から、20代~30代の若手のほか、40代の現経営者や次期経営者など幅広い年齢層が参加。地域の垣根を越えて、これからの水産経営を考え、新事業を創造する勉強会をオンラインで実施しました(2020年7月7日〜9月1日 計5回)。このキャンプは、地域の強みや弱みを理解するとともに、顧客を分析、差別化のポイントや自社のポジショニングを考えたり、実際に実行計画を立案したり、不足するリソースについて5回の講座で学ぶというものです。

 「キャンプでは、アワビの陸上養殖、これまでの常識を破る常温で長期保存可能な蒲鉾など、具体的な事業展開のほか、「海に育てられた」ことを再確認し、使命感を帯びて漁業に挑む若い層の参入など、熱い議論が交わされました」と手応えを感じた松本。

キャンプに参加した事業者も早速、他の事業者と連携する動きも始まっているようです。

サミットではキャンプの熱気をそのままに、水産業の現状を広角で捉えたゲストのプレゼンテーションや、異業種の参入など、新たな水産業の創造に期待が高まります。

 

小規模だから可能な強みを活かす

キャンプに参加し、サミットでも事業者プレゼンテーションを行う株式会社 センシン食品(宮城県名取市閖上)の通販事業部 高橋大善さん(30)は、「規模や場所は違っても、自分の同じ若い世代の経営者層は同じ問題を抱え、現場に危機感を感じていることを再認識しました。キャンプではビジネスの最先端にいる人たちに、自分のプランを承認してもらい、実行に向けて背中を押してもらえました」と手応えを感じています。

同社は、2007年に福島県相馬で創業、東日本大震災で工場が被災し、2016年に閖上の水産加工団地の立ち上げに伴い、復興第1号工場として再建しました。電磁波凍結機、スチームコンベンションオーブンなどを巧みに使い、高い品質を確保。主に大手量販店や外食店向けの水産加工品を扱い、ECでの販売(相馬のおんちゃま)、委託加工などを手掛けています。

「サミットのような意識が高い人たちが参加している場でビジネスプランを発表することで、自社の取り組みや商品を認知してもらえる価値は大きいです。私自身、起業したいと思っている人は応援したいし、大いに相談もしてほしいですね」

  

天然アワビを超えろ!完全陸上養殖アワビ

水産資源の減少が危惧され水産業の変革が叫ばれる現状では、養殖技術に進歩と開発には期待されています。「元正榮 北日本水産 株式会社」(岩手県大船渡)は日本で唯一、アワビを交配、散乱、孵化から食用サイズになるまで完全陸上養殖を手掛けています。同社のアワビは、天然ものより1.5倍から2倍成長速度が速く、天候や海藻の生育状況に左右されることなく、高品質で安定供給が可能。

キャンプに参加した創業者の孫で営業の古川翔太さん(24)は、「これまで弊社の取引先はB to Bが主流でした。しかしこれからはB to Cへの転換期であり、新商品をどんどん開発していくステージにあると考えています。キャンプをきっかけに新しい繋がりもできましたし、欲しい情報を得ることができる貴重な経験でした」と、キャンプ参加は、自社のレベルアップと自身の頭の整理になったと古川さん。

「サミットでは、自社の養殖方法や商品にマッチする認証制度の活用、S N Sを活用した一般への訴求など、広く情報と人材が得られることを期待しています」と、サミットでの新しい出会いに目を輝かせています。

変わる漁業。変える水産加工業

10月に開催する「三陸水産イノベーションサミット」では、キャンプ参加者の事業プランを考えているキャンプ参加者にとって、発表の場でもあります。発信者として登壇しつつ、その事業に魅力を感じたいろんなセクターの人々、テクノロジー系企業、行政、金融機関、水産関係者、大学などの教育機関、現役学生などが関わり、さまざまな角度で議論します。

フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 海外事業部長 土合和樹も、異業種からの転職組で、インド、アメリカ、アフリカ、カイロと世界中を駆け回った元商社マン。震災を機に、三陸の海の幸を世界に届ける“フィッシャーマン”として、海外販路の開拓や物流網の構築に日夜励み、三陸の水産にイノベーションを起こすべく奔走している一人。

「漁業者はこれまで、あそこの漁場は俺しか知らねえ、隣の浜、隣の漁師にはいい漁場は教えない、というのが普通。漁獲量が全てだから当然です。流通加工屋さんも、ここより高いところは俺しか知らないと、情報を隠すことによって他社との優位性を築いてきました。閉じることによって優位性を持っていた。今はそういう時代ではなくなってきました」

 一社一社が個別に戦う時代から、産業として連携し、共に成長していく時代へ。
その時代の変わるさまを、サミットでは体感できることができるはずです。

 「漁業や加工業、流通も含めた今までの水産業界の課題として、これまでは閉じられていたところを、“開かれた水産業”にすることがサミットの大きな目的。今回、コロナ禍ということもあり、当初予定していた対面集客してのイベントではなくなりました。ですがオンラインだからこそ、水産業には距離があるけれど興味はある遠方の都市部の方々も参加しやすくなりました。三陸で戦う水産事業者はもちろん、地域の大学、金融機関、大手で水産業に興味関心がある民間企業、通信会社、設備会社、ベンチャー企業、大学生に対して、水産業を基点に新たな可能性を生み出していく場として、サミットに参加してほしいですね」

 

震災から間もなく10年。
「海は変わった。仕事はどうだ」。
コロナ禍で世界中の産業が混乱する中、これまでも自然を相手に立ち向かい、荒波も乗り越えてきた水産業から活路を見出し、邁進するための事案に出会える「三陸水産イノベーションサミット」に、ぜひあなたも参加してください!

 

三陸水産イノベーションサミット
20201022()・23()・29()・30() 18:00~21:00
4オンライン配信
参加無料

参加申し込みはこちら
http://sanrikusuisan-innovation.go.jp/summit.html

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