【生産のその先】水産業の流通の仕組みを教えて!

漁師たちが、命がけで獲った、丹精込めて育てた海産物。
みんなが「おいしい!」と笑顔で頬張るまでに、どんな経路をたどるのでしょうか?
漁師が水揚げした海産物は、活魚・鮮魚・冷凍・冷蔵などの状態で流通します。
流通は市場を通す「市場内流通」と、市場を通さない「市場外流通」に分けられ、現在その割合は半々となっているようです。
今回は、新人漁師にとっても関わりがある市場内流通、市場外流通、そして共同販売(共販)という仕組みについて紹介します。

①市場内流通とは?

海産物はまず、水揚げ港に開設されている産地市場に水揚げされます。
漁業が盛んな宮城県では、石巻、気仙沼、女川、塩釜をはじめとする10か所の産地市場があり、そこに水揚げされる多種多様な水産物は、大都市や地方都市など一定の消費人口がいる都市に開設される消費地市場に運ばれます。
消費地市場の代表格と言えば、豊洲。正式名称は、東京都中央卸売市場。
大都市(人口20万人以上の自治体)にある消費地市場を、中央卸売市場と呼びます。

産地市場では、地元の仲卸業者や加工会社がセリや入札で海産物を購入します。
大きな特徴としては、産地仲買人が買った海産物は、その後全国各地にある消費地市場に出荷されるということ。運び込まれた海産物は消費地市場において再びセリや入札が行われ、消費地の仲卸業者に販売されます。そして仲卸業者から、小売店や料理店に海産物が売られて行くわけです。

市場内流通はたくさんの人の手を介するため一見複雑に見えますが、この仕組みがあることで全国で水揚げされたさまざまな魚を、店の規模に見合った量だけ仕入れることが可能となります。

市場内流通は、いわばひとつの大きな川だと思ってください。
大きな川の流れによって、中流、下流、支流、思いのままに、各地の海産物が届けられるということです。
ここで市場での販売方法を見てみましょう。
市場では、「セリ」「入札」「相対」この3つの方法で販売をします。

セリ

その場で一番高い値をつけた人が競り落とせる販売方法です。値段を上げていく「上げゼリ」、逆に下げていく「下げゼリ」があります。
古くからの慣習で、指で数字を示す「手やり」が多く使われています。

入札

買受人が欲しい量と値段を書いた紙をセリ人に渡し、高い価格をつけた人が購入できる販売方法。その場で値が変動していくセリと違い、ほかの買受人がつけた価格がわからないので、まさに一発勝負。近年は電子入札を取り入れている市場も増えてきています。

相対(あいたい)取引

卸売業者と買い手が、販売価格及び数量について交渉のうえ、販売できる方法。
中央卸売市場では、相対の取引が多く、大手の量販店や飲食店など大量に魚を必要とする大口の業者向けには、事前に品物を告知をし予約販売することも。

市場はそれぞれの地域によって特色がありますが、石巻市水産物地方卸売市場(石巻魚市場)の場合、扱う魚種や数量が多いので、漁師から魚を預かり、市場に出荷できる状態に準備を行う「問屋」というプレーヤーもいます。問屋はいわば、漁師と市場の仲介役。問屋の働きによって、スムーズに市場でのセリや入札が行われているのです。

一方、石巻魚市場で魚を購入できる権利「買参権(ばいさんけん)」を持つのが、買受人(かいうけにん)と呼ばれる人たち。
買受人は、産地仲買人と言われる鮮魚出荷業者のほか、加工業者、冷凍冷蔵業者、小売業者、飼料などをつくる化成業者など。石巻魚市場は、加工の原料となるイワシやサバの水揚げが多いことから、買受人に加工業者が多いことが特徴です。

市場内流通は、卸売業者や仲卸業者の働きによって集荷や分荷の機能が発揮されているため、小さな小売店から大口需要者にまで売りつなぐことができるのが、ひとつのメリットです。

そして、産地市場、消費地市場、これらすべての卸売市場において、その日のセリや入札価格が公表されるため、取り引きする際の参考価格(最高値)や公正な取り引き指標が判断できる役割も兼ね揃えています。

②市場外流通とは?

先ほど市場内流通を「大きな川」と表現しましたが、市場を通さない「市場外流通」は、その川の流れや方向、働きを自らつくることに値します。

例えば、加工屋や仲買人などの業者から直接注文を受けて(契約をして)出荷したり、「今日はこんな魚が入ったぞ!」と漁師自ら船の上で営業の電話をすることもあります。

市場外流通では、市場の動きに合わせることなく出荷ができることや、流通段階でかかる費用を省くことができるメリットがあるので、漁師たちは時期や魚種ごとに自分の海産物の売り先を上手に使い分けすることもあります。

今やネットショッピングが主流の時代。実際に自分で売ってみたい!という人も中にはいるのではないでしょうか。

個人で販売する場合、消費者と直接繋がれるのは魅力的ですが、自然相手の仕事をこなしながら、広告ページの作成、顧客それぞれの対応、梱包や発送、代金決済など煩雑な作業をこなすというのは、なかなか大変なことです。
安定して供給するためには、漁師仲間と組んだり、専門の人に加わってもらうなど、チーム化が必要となります。

③共同販売(共販)とは?

沿岸部で養殖業に携わる人にとっては、漁業協同組合(漁協)が行う「共販」が主流です。共販とは、漁協が漁師から仕入れた海産物を一括して仲買加工業者に入札(もしくは相対で)販売するシステムのこと。

漁師にとっては、共販で売ることで代金回収のリスクが少なく全量を売ってもらえるというメリットがあります。

例えば牡蠣養殖でいえば、宮城県は経営体数がいちばん多い県です。それはすなわち会社組織ではなく、家族単位で生産している漁師が多いということ。もし、共販がなければ、先の震災からの復旧に加え、家族単位で漁業を営む漁師たち自身が販路確保まで行わなくてはいけなかったということになります。
確固たる共販システムがあるからこそ、漁師は自分の仕事に集中し、ほかのことにも挑戦できる余白ができるのかもしれません。

もっと知りたい!新しい流通のカタチ「6次化ってなに?」

市場外流通の説明でも述べたように、漁師たちは常にどういった形で海産物を出すのがベストか、状況を考えながら売り先を考え、使い分けている人もいます。
中には、獲ったり育てたりするだけではなく、ビジネス範囲を自ら拡大し、加工・販売まで挑戦する漁師も……
1次産業(生産)×2次産業(加工)×3次産業(流通・販売)=6次産業
これを「6次化」と言います。
6次化のメリットは、生産だけでなく販売までを一貫して行うため、生産物の持つ価値をさらに高めることができることにあります。うまくいけば、海産物のブランド化や所得の向上にもつなげることが可能です。
参考記事:漁業生産組合 浜人(フィッシャーマン・ジャパン代表理事 阿部勝太)

さらに昨今は地域を巻き込み、体験漁業や遊漁、レストランや民宿、さらにマリンレジャー、観光と組み合わせた6次化が行われているところもあります。

生産の現場にどんな付加価値をつけるのか。事業の活性化だけでなく、地域を巻き込んだ活性化にも一役買っている漁師も増えてきているようです。

獲れる魚の量は、かつてのように多くはありません。
そして今年2020年は、新型コロナウィルス感染症の影響により、飲食や観光業界が大打撃を受け、そのしわ寄せが生産者にも響いてきています。

あなたが命がけで獲った・育てた海産物を、どの人に、どの形で託すのか。
これからも時代のニーズに合わせて変化していく流通のカタチを、漁師自身が見極め、判断をしていかなくてはいけないのかもしれません。

漁師や産地仲買人から直接海産物を仕入れ、海産物のストーリーを伝える「宮城漁師酒場 魚谷屋」。不定期で漁師が店に立つことも!?

(文=藤川典良/編集=高橋由季/写真=Funny!!平井慶祐、高橋由季)
参考サイト:(水産庁)水産物の流通・加工の動向

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