ホタテの産地といえば、北海道や青森を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?実はその2大産地に次ぐ出荷量を誇るのが宮城県。
宮城県はホタテ養殖の南限と言われるため、首都圏への出荷も多く、プランクトンの豊富な海で育ったホタテは肉厚で濃厚。ファンも多い海産物です。
身近な食材でありながら、意外と知らないことが多いホタテ。
生産の現場から、その魅力をお伝えします。
耳吊り ー冬の陣ー
ホタテ養殖は、幼生(ホタテの赤ちゃん)を海でとるところからはじめる方法と、中間育成された半成貝(ホタテの稚貝)をよそから搬入して、海で吊るして大きくする方法があります。石巻の場合は、後者が主流です。
11月に入ると、半成貝が北海道からトラックで陸送されます。
早朝に水揚げされたものがこちらの浜に到着するのは、深夜。
男性陣は荷下ろしのため、日付が変わった0時頃から浜でスタンバイします。
半成貝を受け取ったら、蝶番(ちょうつがい)付近の一部分(ホタテの耳と呼びます)に小さな穴を開け、ロープに等間隔についたピンへ差し込んでいく作業を行います。これが「耳吊り」です。
もちろん半成貝は生きていますから、なるべく早く作業を行い、その日のうちに海に入れなくてはなりません。
そのため、「耳吊り」には多くの人手が必要となり、朝7時頃になると浜のお母さんたちをはじめとする女性陣も大事な戦力として加わります。
半成貝の量にもよりますが、15時頃までには作業を終えるそうです。
半成貝は出荷元の天候次第でやって来ますので、受け取るこちらが悪天候であっても行われます。出荷元が好天であれば4、5日連続で「耳吊り」が続くこともありますし、逆に時化続きで半成貝がやってこない!ということも……。
「耳吊り」とホタテの水揚げがかぶることもあるので、ホタテ漁師にとっては一番試練の時期といっても過言ではありません。
この時期の漁師たちは、恋人からの電話を待つようにいつもそわそわ。「トラックに乗せたよ」という連絡が入るのを今か今かと待ちわびています。
仕上げは手作業。ホタテの水揚げ
耳吊りをしたホタテが出荷できるようになるのは、翌年5月頃から。
ホタテは大きくなるに連れ、重みを増していくため(付着物の重みもあります)、筏が沈まないように成長に合わせて浮き玉を調整する必要があります。また、付着物はその年によって違うのですが、ムール貝や昆布などの付着物が多い場合は、1枚1枚を手に取り、きれいにしてあげることもあります。
ホタテの水揚げは、ホタテがぶら下がったロープを機械で巻きあげ、付着物をとるための機械(カッター)にかけ、機械から出てきたホタテをきれいなもの、汚れているものに仕分けしながら、汚れているものはナタを使って付着物を取り除きます。
同時に、出荷の基準サイズと規格外のサイズにも分けていきます。
作業分担が分かれるため、2〜4人体制で行っている漁師が多いようです。
ホタテの出荷は業者が浜に取りにくることがほとんどなので、数量を考えながら朝の引き取りの時間に間に合わせるように出港しますが、近年はホタテのへい死が多いこともあり、真夜中に出港することも増えているそうです。
もっと知りたい!ホタテのこと
ところでみなさんは、ホタテの部位をどれくらい知っていますか?
貝柱の横にあるのが生殖巣。ここが白いものは精巣つまりオス。オレンジ色のものは卵巣、メスとなります。
ホタテは5月に放卵を行うので、その前後では貝柱の周りの部分に栄養が集まります。放卵を終えると今度は貝柱に栄養が集まるので、貝柱が大きくなりなるという仕組みです。
ホタテは1年中水揚げができるので、旬を聞かれるととても難しいのですが、食べたい用途や部位に合わせて、ぜひその時期ごとのおいしさを味わってみてください。
ちなみにヒモの部分にある黒い小さな斑点は、ホタテの目。
その数はおよそ60〜120個!
色の判別などはできませんが、光の明暗を区別することができるのだそうです。
こだわりのホタテを届けたい
石巻においても、ホタテの養殖地として有名なのが雄勝町です。
20年ほど前から地域全体のホタテの品質をあげるために、さまざまな取り決めを行ってきました。
たとえば、ホタテを吊るすロープの間隔。
人によってはぶら下げられるだけぶら下げるという人もいますが、量をたくさん作ろうと思うと過密になってしまい(餌となるプランクトンが十分に行き渡らないため)、ホタテは大きく育つことができません。
そこで、1本のロープにぶらさげる個数を160個以内とし、垂下するロープの間隔は60cm以上と取り決め、地域全体でホタテの品質をあげる努力を行ってきました。
ホタテは、隔週で「浜値」を決める値決め会(宮城県漁協、仲買人、生産者の代表が集まる会合)というものがあります。
努力の甲斐あって、雄勝のホタテは品質が良いと高値がつくようになり、「雄勝」という地域名が、ひとつのブランドのような役割を持つようになりました。
漁師ごとにやり方や考え方が違う中で、地域一体でひとつのルールを決めて行うということは、革新的な取り組み。
量よりも質を選んだ漁師たちの強い意気込みが、そこにはあります。
知られざる、ホタテ養殖の世界。
あなたもその虜になってみませんか?
(文=高橋由季/写真=Funny!!平井慶祐、浜吉勇馬、高橋由季)
※養殖方法は地域や個人によって異なります。この記事は宮城県石巻市雄勝町でホタテ養殖に携わる漁師の協力のもと作成しました。