FJ研究所が取り組む研究テーマ3選
FJ研究所では既に、宮城県石巻市蛤浜、東京都利島村、三重県南伊勢町などを主なフィールドとして活動に着手しています。それぞれの地域で取り組んでいるテーマをご紹介します。
「山と海のつながり」石巻市蛤浜での取り組み
FJ研究所が、主要なテーマに据えて取り組んでいるのが「山と海のつながり」についてです。
蛤浜ある三陸地方はもともと、親潮(寒流)と黒潮(暖流)がぶつかってとてもいい漁場だと言われていました。ところがそこが昨年、前年比で「世界で最も水温が上昇した場所の一つ」となってしまったんです。前の年に比べ+5℃から+10℃とも言われていて、漁場は壊滅的な被害を受けています。
ずっと「海がやばい」と言ってその対策を活動の柱にしてきたわけですが、蛤浜や牡鹿半島、石巻全体に目を向けてみると、実は山もとても大変な状況だということがわかってきました。蛤浜ではもともと植林をして杉がたくさん植わっていたのですが、林業会社が激減し適切な間伐がされなくなってしまったことで杉がどんどん弱り、倒木も目立っています。地元の漁師によると、かつては山林にも川が流れその冷たい水がずっと海に注いでいたのですが、4つほどあったその川も、今はほとんどが枯れてしまっている状態です。
海の海水温が高くなっても、川から冷たい水が流れていれば海も多少は温度が下がったり、その部分には魚が住めたりしていたのが、そうしたつながりもどんどん希薄になってきています。海だけではなく、山もどんどん変わってしまってきているということは、とても深刻な事態です。
海と山両方の課題に取り組み、それぞれを良くするよう改善をしながら、両者のモニタリングを継続することで「山がこう変わったら海がこう変わった」という結果を世の中に対してしっかり提示していこうと、データを取り始めている段階です。長期的な取り組みになると思いますが、既に大学の研究者と連携し、データ分析などをお願いしています。先生たちも月1で現場に入ってくださり、地域のみなさんと二人三脚で取り組んでいます。
ほかにも、民間のエンジニアの方が海底の様子をモニタリングしてくれたり、地元の林業会社に協力してもらい、いくつか山を借りて「海のための山づくり」に取り組んだりと、幅広い人たちがかかわりながら活動を展開しているところです。
磯資源を取り戻せ! 東京都利島村での取り組み
伊豆諸島の利島村は、今年から本格的にかかわっているところで、FJが担当する水産分野のほか、農業や宅地など、島内の重点施策に、昨年~来年までの3か年で取り組むプロジェクトとなっています。
利島村は、面積にして4平方キロメートル、人口300人の小さな丸い島です。伊勢エビや大きなサザエが島の特産でしたが、磯焼けが進行して海藻が減り、以前に比べ獲れなくなってきています。
FJ研究所としては、大学や民間の研究者たちの力も借りながら、伊勢海老やサザエなどの磯資源がなぜ減ってしまったのか、それをまた増やすにはどういうことが必要なのかということについて、調査を進めています。
利島村で海藻が減ってしまった原因についても、やはり水温上昇が深く関係していそうです。水温が高いことで、海藻が入ってくる冬場の時期にも草食魚が活性化してしまい、どんどん海藻の芽を食べてしまい、そこを棲み処としている伊勢海老やサザエが減ってしまったのではないかと見ています。
この状態をどうしたらまたプラスの方に持っていけるかと考え、①海にたくさん栄養を与えることができれば、珪藻などが岩場に生え、それを食べるイワシなどの小型魚が寄ってくる ②集まってきた小型魚を食べるためにやってきたカツオやマグロなどの大型魚が、過度に増えている草食魚を食べて生息数を抑制してくれる という仮説を立てて調査にあたっているところです。
海に与える栄養源としては海底湧水を活用できる可能性があるのではないかという予測のもと、大学の専門の先生方に入ってもらい、湧水の発生ポイントの特定や土壌分析などを進め始めています。
地下での水の動きはまだよくわからないため、海だけでなく、陸地で地下水がどんな動きをしているのかということも、今後分析していきたいと思っています。そうした分野に詳しい研究機関にもアプローチし、協力者を募っています。
まち×大学×ベンチャーで海の課題解決を目指す 三重県南伊勢町での取り組み
2022年からFJが漁師の担い手育成事業に取り組んできた三重県南伊勢町も、フィールドのひとつとなっています。 南伊勢町役場には、水産事業振興のために海の研究や調査をする「水産種苗センター」があります。 そこでは、魚類や貝類の種苗生産や放流事業、海洋環境の調査、藻場再生の取組みなどをこれまで行なってきました。
栽培漁業の推進を背景に設立されたセンターですが、 一方で近年、「放流」という手法が果たして海にとって良い影響を与えているかというところについては、わからないことも多い状態です。
現在は、高水温や磯焼け等の海洋環境の急激な変化や、漁業者の高齢化など、町の水産業は気候変動や社会課題に直面しており、センターに求められることが多様になっています。 FJ研究所は、センターと連携し、現在の海の課題解決を目指すセンターの運営を目指していきます。
そのうちの一つのテーマに、新たな養殖種のチャレンジがあります。 実際に、海藻養殖ベンチャーの(同)シーベジタブルと海藻養殖の試験を共同で行い、 これからの海洋環境に合った海藻養殖の模索を始めています。
種苗センターで行ってきた、町の子どもたち向けに水産学級の強化も一つのテーマです。 今後、研究者や水産ベンチャーなど、世界に目を向けた取り組みが南伊勢で進んでることを伝え、 南伊勢の海から世界を感じてもらいたいです。 海や水産業にとって「本当に良いことをやっていく場所」にするため、私たちが間に入り、大学機関、ベンチャーと町との連携をどんどん増やしていきたいなと思っています。