気仙沼の海から始まる、若手漁師たちの「自分らしい毎日」

12月某日、土曜日。気仙沼の山の端が茜色に染まり、やがてとっぷりと夜の帳が下りる頃、気仙沼の魚市場前、みしおね横丁の鶴亀食堂に、気仙沼の若手漁師が集まり始めました。自分たちで獲った、育てた海産物を持ち寄り、お客さまに提供する、いわゆる「漁師居酒屋」が間も無く開店します。

■地元も県外も、程よくブレンド

気仙沼の各所に掲示されている、色とりどりのカッパに身を包み堤防の上にすっくと立つ漁師のポスター。実は、気仙沼の漁師という共通点はあるものの、年齢も出身地も養殖漁業や定置網漁など漁法もさまざま。けれど、互いのリスペクトと共に程良い距離感は爽やかで微笑ましくもあります。


若手漁師ポスター「漁師たちの気持ち編」「応援するわたしたちの気持ち編」

若手漁師による「漁師居酒屋」は、11月には東京でも臨時開店。気仙沼出身で定置網漁をしている佐藤優太さん(26)は、「お客さんの顔が見れて、直接『美味しかったよ』と言ってもらえる。それが一番の刺激」と、手際よく魚を捌いています。

その佐藤さん、魚市場で4年間働く中で魚や漁法の知識も身につき、定置網に魅力を感じて熊栄産業松島網に就職して4年目。

同じく気仙沼出身の菅原遥斗さん(21)は、理学療法士を目指して医療系の専門学校に進学したものの、なりたい職業のハードルが高く、徐々にモチベーションも下降気味に……。でも、釣り好きも高じて、親と知り合いだった現在の親方の元でバイトからスタート。

「やってみたら、自分に合っていました(笑)。友だちにも『えっ、漁師?』って驚かれます」と、厳つい漁師のイメージにはないシュッとした笑顔。それもそのはず、バイト期間も含めてようやく初心者マークが外れたところです。

一方、愛知県出身の松影拓朗さん(29)は、愛知県の水産高校を卒業後、旋網船、警戒船と船歴はなかなかのベテラン。

「将来独立できる仕事を探して、一人親方の元に弟子入りし、一人前の漁師に育ててもらうことを目指し、気仙沼のお試し移住に参加。「自分と年齢が近い若手が頑張って楽しそうにやっている姿も見て、気仙沼に決めた部分は大きいです。気仙沼に来てからは、すぐにみんなと仲良くなれました」と、満面の笑顔。「別の地域で旋網船に乗ってたけど、同じ漁法同士の繋がりがある程度。気仙沼の若手漁師は少数精鋭なので、自然と話す機会も増えるし、話もめちゃくちゃ合うので、それがデカい!」。気仙沼では、地元も県外も、いい塩梅で程よく混ざり合っています。

■時に和気あいあい、時に切磋琢磨

その自然と話す機会は、気仙沼出身や県外からの移住という垣根を超えて広がっています。
養殖漁業の菅原くんは、「自分はホタテと牡蠣とワカメの養殖をやっていて、優太さんみたいに定置網で魚を獲ってる人もいて、同じ漁師でもやってることが全く違う。こういう集まりがなかったら、基本的にやってる漁が変われば関わることがないので、養殖だけの知識しかなかった。お互いの仕事の話をすると、知識も広がるし、参加してすごくいいなって思います」。
佐藤くんも「まずこうして仲良くなれたのが一番。自分も釣りが好きなのでLINEで釣り情報も交換してます。でも、一番は仲間が増えたこと!」と、釣りはしても魚を捌くことのない菅原くんに、捌き方をレクチャーしています。

愛知出身の松影さんは「若手の担い手がすごく増えてきているので、情報を共有してお互いに良い関係でずっとありたいですね。こういう感じがなかったら、29歳の僕が、違う親方のとこの21歳の子と話すことなんかなかった。喋っていて弟というか、新鮮ですし、なんか不思議です」。


「漁師居酒屋」も今では地元だけでなく遠方からの常連客も増え、会話も弾みます。お客さんも普段はあまり知らない漁師さんの話に興味津々です。若手漁師同士の楽しい会話と美味しい海産物。気仙沼の若手漁師は、立派な水産業のアンバサダーも担ってくれているようです。

横のつながりはモチベーションアップにも繋がり、松影さんは「若手の繋がりから、さらに世代を越えたつながりも増えてきました。どんなことがあっても、気仙沼で漁師はずっと続けていけそう」。佐藤さんは「漁師をやってみて楽しいっていうのもあったし、一生漁師でいようと覚悟が決まりました」と海の男の顔に……。
菅原さんも「単純作業もこれは何の意味があってこの作業しているのか、少しでも早く覚えられるようにと、意識は変わりました」と、自分のつくるホタテのさらに伸びしろを求めて、他地域のホタテについて、品質や育て方など情報集めに余念がないそう。

松影さんはさらに、「牡蠣は冬が繁忙期なので、漁師間のこうしたコミュニティで、ちょっと暇な時期にアルバイトに来てくれよっていうようにできたらいいですね」と、このコミュニティを活かした働き方も模索中です。

そして、迷っている人にメッセージをと求めると、松影さん、佐藤くん、菅原くんの3人は、「まずは気軽に挑戦してほしい。気仙沼の漁師の、みんなでワイワイやる横のつながりがすごく居心地がいい!」と、言うことも息が合っています。

気仙沼に自然発生した、担い手漁師のコミュニティ。浜も年齢も違うけれど、同級生?と思うほど仲が良く、同じ海好き、魚好きが集まる漁師クラブ? いや、厳しい体育会系ではなく、もっと緩く穏やかで、でも好きなことには熱い、漁師サークルという感じがあってるかな?
今夜も楽しい仲間たちと、訪れたお客さんも一緒に、楽しい笑い声が響いています。

文:藤川典良 写真:Funny!!平井慶祐、スタジオアート※取材は2025年12月に行いました。

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