<銀王>、世界を目指す ―A S C認証取得で得たものー

<銀王>、世界を目指す ―A S C認証取得で得たものー

宮城県女川町尾浦浜。

<銀王>と名付けられた銀鮭が養殖されています。

世界にも通用する銀鮭を目指し品質向上を繰り返してきたその養殖過程が、ついに世界基準として認められました。

早朝と呼ぶにはまだ早い、深夜の午前2時半。

真っ暗な海を船は進みます。

やがて海上に浮かぶ四角い生簀(いけす)に到着。

目をこらすと周囲には、それよりさらに大きな八角形の生簀が4台浮かんでいます。

1つの生簀に約3万匹の銀鮭。内陸の淡水で育てられた稚魚を海上の生簀で約半年育成、水揚げ量に応じて出荷用の生簀に移したのち、1日餌抜きをしてから水揚げ。次々、網ですくわれ氷を入れたボックスに移されます。すぐに氷水に入れると身が締まります。船上でも美味しさのひと工夫。

やはり、水揚げし立ての新鮮な鮭はまず刺身で。適度に脂のった身はふっくら柔らかく、旨味は濃厚なのに後味爽やかでいくらでも食べてしまいそう。

カルパッチョやムニエル、ホイル焼きと、身質は柔らかいので焼いた時に固くならず、調理によってまた違う味わいを楽しめます。

 

<銀王>誕生

一般的によく知られる秋鮭は学名をシロサケといい、銀鮭はコーホーサーモンという学名の別種です。

天然の銀鮭は寒冷な海域の魚で、ロシア南東部からアメリカ・カリフォルニア州にかけて生息し、日本近海には天然ものは生息していません。

<銀王>を扱うマルキンの創業者であり、銀鮭養殖の事業化を実現した社長の鈴木欣一郎さん(86)が養殖を始めたのは1977年のこと。世間に養殖がまだ認知されていない時代。周囲の反対を押し切って始めた銀鮭養殖は、それまで秋冬の魚だった鮭を、春夏にフレッシュな状態で出荷し、高値がつきました。当初は反対していた他の漁師も銀鮭の養殖を始め、一時は銀鮭バブルに。しかし、泡はいつか弾けてしまうもの。自然に銀鮭養殖漁師は淘汰されていきます。

その中にあっても、銀鮭養殖のパイオニアとして品質と味にこだわり、味覚の肥えた食通を唸らせています。

欣一郎さんの孫にあたり、養殖現場を仕切る鈴木真悟さんは、改良を重ね続けた銀鮭を<銀王>としてブランド化。さらに、多くの消費者に訴求できる方法を模索しました。

「これまでマルキンは一貫生産にこだわりそれを売りにしてきたけど、加工履歴をつけるのは時代の流れとして当たり前。国内で安売り合戦に加わるより、その中でより商品価値を高め単価を上げるために、海外に目を向けました」

 

世界基準への挑戦

ノルウェーやチリの(養殖)サーモンは、A S C(水産養殖管理協議会=Aquaculture Stewardship Council)という、国際的な機関の養殖認証を当たり前のように受けています。A S Cは、持続可能な水産物を認証する「海のエコラベル」M S C(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)の養殖版。

サケやマス、ブリ・スズキ、エビ、アワビ、それに牡蠣や帆立の二枚貝、そして海藻などの10魚種(2018年10月現在)に対し、乱獲防止や自然環境の汚染、過重労働などに配慮した養殖漁業をしていることを検証する国際的な認証制度です。国によっては認証がないと商業ベースで受け付けない国もあるほど。

リオやロンドンで行われたオリンピックでは、A S C認証食材しか扱ってはいけないことになっていました。しかし日本で開催予定のオリンピックでは、認証食材が少ないので選定の基準を下げ、世界から疑問視される事態になりました。それほど、日本ではA S C国際認証の知名度は低く、世界から遅れをとっています。

「将来的には輸出も見据え、A S C認証取得までの経過を公表することを目的に、2017年に養殖漁業改善プロジェクト(※)を立ち上げ、<銀王>の養殖環境の改善を進めてきました。もともと卵から成魚まで自社で管理しているので、最終的にどういうところで扱っているのか履歴もわかっています。しかしA S C認証取得には、逃げた養殖魚が周辺域に生息するほかの魚と交配しないようチェックするため稚魚と水揚げの誤差が5%以内にする規定や、養殖場周辺の海棲哺乳類の移動ルート、底生生物への影響など、周囲の環境に対し調査が必要です」

法令遵守はもちろん、生態系機能の保護、環境配慮、養殖場の管理運営における社会的責任など多くの審査項目をクリアしなければ、A S C認証を取得できません。

 

漁業も獲るだけでなく、連携の時代へ

養殖から加工、販売まで一貫生産しているので、マルキンでは銀鮭養殖の管理体制に自信を持っています。けれど、AS C認証を受けるには、自社で行う養殖魚の育成だけではなく、毎日与える餌も厳密に管理しなければならず、他社との協力体制が必要不可欠です。

「銀鮭の身質や味は、餌と締め方で決まります。朝夕2回与える餌はイワシなどの魚粉や魚油などのほか、ビール酵母やハーブを加えるなど、銀鮭の味を引き出す工夫もしてきました。しかし認証を取得するには、餌の配合物の加工履歴も追えなければなリません。従来は魚由来にこだわって配合した餌を石巻の会社でつくってもらっていましたが、A S C認証に対応し加工履歴がわかる餌を九州の会社に依頼。従来の餌により近い仕上がりになるように配合を考えてもらい、導入しました。従来の餌を作っている会社にはA S C認証をとった餌のメーカーに指導に入ってもらい、履歴を追える管理体制をつくれるよう協力してもらっています」

単に業者を変えるだけでなく、地域全体で成長していこうという姿勢が見える真悟さんですが、もともと漁師になろうと思っていたわけではありません。

サラリーマンも経験し、外の世界にいたからこそ気づくことも。

「昔の肉体労働の漁師の時代と違い、船や設備がどんどん良くなっている今、いかに効率的に働ける環境にできるかも、養殖環境改善の重要なポイントになります。I T技術を使い海水温や海水の酸素量を自動で測り、モニタリングできるシステムを活用した、I C T漁業の推進を同時にやっていこうと計画しています。これまでは、問題があったときにだけ、研究機関に水質分析を依頼していました。しかし、スポットだけのデータでは判断材料としては弱く、推測しかできません。継続したデータがあれば、通常時との違いを判断できます。農業ではI Tの導入も進んでいますが、水産業はデータ活用の部分が遅れています。A S C認証を取得するために養殖環境改善プロジェクトをやったことによって、売り先だけではなく、I Tや環境系のシンポジウムに呼ばれ、異業種も巻き込む、大きなメリットもありました」

 

開拓者の血脈

天然の資源が数年で回復するわけもなく、養殖は今後重要産業になっていきます。

しかし、世界の水産業では趨勢を占めるA S C認証も、日本では浸透していません。

国が力を入れない中、そこに目を向け取り組む人が増えないと、国も重い腰をあげないと真悟さんは考えます。

マルキンの<銀王>でA S C認証を取ったとしても、大手流通の規模では微々たるもの。認証取得によって販売先とつながるなどメリットが見えないと、他の生産者も認証取得に興味を持たない。そのためのアプローチをいろいろ考えています。他の産業がA Iに奪われていく中で、漁業や農業など一次産業は継続していける部分も多く、魅力はまだまだ引き出せると思います」

銀鮭養殖の道を自ら切り拓いた鈴木欣一郎さんは、銀鮭養殖の実績をつくり、反目する漁師たちを振り向かせました。

その血を受け継ぐ孫の真悟さんもまた、人々の先を歩き、世界基準の漁業を確立しようとしています。

2020年6月5日「環境の日」、<銀王>のA S C認証が認められました。

 

※ 養殖漁業改善プロジェクト: Aquaculture Improvement Projectを略してA I Pともいう。
漁業者、供給工程上の関連企業、NGOなどが協力して、持続可能な養殖業の確立をめざす組織的な取り組みのこと。一般的にはこの取り組みを通し、ASC認証の取得を目指します。 具体的には現状の課題を特定、次いで課題解決の計画を作成し公表し、改善内容の定期的なモニタリングを通じて計画の見直しと調整を行います。

(文:藤川典良 写真:Funny!!平井慶祐)

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