第10回 漁師の仕事を知る、短期研修プログラム「TRITON SCHOOL – 秋鮭刺網編 – 」

第10回 漁師の仕事を知る、短期研修プログラム「TRITON SCHOOL – 秋鮭刺網編 – 」

漁師になりたい!漁業の現場を見てみたい!
そんな人へ向けた1泊2日の漁業体験「TRITON SCHOOL」。

今回が初となる気仙沼の唐桑半島を会場とした「TRITON SCHOOL」の様子をご紹介します。

 

1日目(2020年1010日)

秋のすーっとした空気のもと、第10回目となる「TRITON SCHOOL」が開校。今回の舞台は気仙沼・唐桑半島です。

しかし、ちょうど台風の接近により、海は大荒れ。前日から天気図とにらめっこしていたスタッフ勢でしたが、どうにも自然には勝てず、「鮭網には出れねぇぞ」という先生の漁師さんからの連絡があり、急遽プログラムを変更して行いました。

気仙沼駅に集合し、まずはオリエンテーションと腹ごしらえ。去年7月に魚市場前にできた漁師さんのための銭湯と食堂「鶴亀の湯・鶴亀食堂」で自己紹介や注意事項などオリエンテーションを行いました。食堂のカウンターは台風で休みになった漁師さんたちで満席。そんな隣で一番人気の「よくばり定食」を。当日の朝に水揚げされたカツオのお刺身とメカジキのカマ煮のセットです。

ご飯を食べていたら、鶴亀食堂で飲んでいたカツオ船の漁師さんが、「船見てみるか?」と声をかけてくれて、急遽カツオ船の船内見学へ!

はじめて入る魚市場、そしてカツオ船に一同ドキドキ。

高知のカツオ船の漁師さん、とても丁寧に教えてくれました。

カツオ船にはたくさんの釣竿が積んであって、ひとり数十本の竿を持っていくんだとか。もちろんその釣竿を売っている漁具屋さんも港のすぐ近くにあるそう。

こういったある意味いいハプニングも、漁師さんと距離が近い港町気仙沼ならではですね。

そしていよいよ今回の会場となる唐桑半島へ。

本来ならば秋鮭は最盛期を迎えているにもかかわらず、ここ数年鮭は不漁続き。そんな中でも興味がある人がいるならば、と3人の講師の漁師さんたち(福生丸 男乕毅さん、皓優丸 三上明さん、幸進丸 佐々木司さん)と、漁協唐桑支所の千葉支所長が小鯖漁港で出迎えてくれました。

鮭の刺し網漁が中止になった代わりにタコ籠漁になりました。

2チームにわかれ、交代で漁にいきます。

皓優丸さんに乗り込み、漁場へ向かいます。時化のため揺れに耐えながらもなんとか到着。前日に仕掛けておいた籠の目印となるボンデンを探します。

そしていよいよ籠揚げスタート!

試しに手でロープを揚げてみましたが、あまりにも重すぎて結局機械で巻き上げることに。何事も経験です。

獲れたタコは袋に入れて逃げないようにしてからカメの中へ。

揚げた籠にタコが入っている時もあれば、もちろん入っていない時もあります。小さな貝やゴミが入っていることがあるので、全部取り除き綺麗にしてからまた次の籠へと移ります。

各チーム10個ずつで計6匹の成果でした。
魚を「獲る」ということは簡単ではありませんね。。自然との勝負です。

籠揚げが終わり帰る前にすこし沖の方へ走ってみると、行きとは比べものにならないくらいの揺れと水しぶきが。こんな状況でもどんと構える漁師さんの姿にたくましさを感じました。

一方、半分に分かれたチームは、陸で船見学とロープワークを教わります。

船の寝台やブリッジ(操舵室)を見学したり、漁につかう刺し網の説明をしてもらったり。

さらに夏に行うメカジキ突きん棒で使う長さ4mのモリを、メカジキに見立てた浮き玉を狙い、練習を行いました。漁師さんはモリをひょいっと持ち上げ、浮き玉に投げてお手本を見せてくれます。

しかし、モリはとても重く、参加者は持ち上げることでさえ精一杯。これを動いている船の先端から泳いでいるメカジキめがけて投げるのは相当な特訓が必要そうです。みんななかなか思うようにうまく投げることができませんでした。

小雨が降りしきる中でのタコ籠漁&船内見学・ロープワークが終わったあとは、宿泊場所の民宿「唐桑御殿つなかん」へ。

漁師さんたち、漁協職員も集まり、懇親会がはじまります。

福生丸・男乕毅さんの乾杯のあいさつで宴会がスタート。参加者も緊張がほぐれ、漁師さんたちと和気あいあい。作業中はゆっくり聞けなかったことを聞いたり、人生の大先輩である漁師さんに相談したりと、深くいろんな話をすることができました。

懇親会のあとは、地元で行われている伝統芸能「松圃虎舞」の練習会があるということで、見学へ。小学生から移住者たち、大人まで、いろいろな世代が交わるこの「松圃虎舞」は地域で昔から大切にされてきたもの。震災後に移住者が増えた唐桑地域では、移住者たちもコミュニティの一員となり、太鼓の叩き手となっています。まさに世代を超えたコミュニティの強さを垣間見ることができました。

 

 

2日目(2020年10月11日)

翌朝朝7時半。まずは鮪立湾の奥にある浜の神様「えびすたな」へ。

震災で一度は流された社が復活し、浜を守る神様として地域で大切にされています。みんなで大漁、安全航海を祈願。

2日目もタコ籠漁に行く予定でしたが、風が強いため中止。プログラムを変更して、唐桑の内湾で牡蠣いかだ見学をさせていただくことに。

今回船を出してくれたのは畠山政則さん。長年牡蠣養殖をするベテラン漁師さんです。

まずは翌日から始まる牡蠣剥きについてお話を聞かせてもらいました。

牡蠣のシーズンは10月〜5月。
一般的には10月〜年末と思われがちですが、唐桑の牡蠣は3〜5月がいちばん身入りがよくなり、おいしいそう。唐桑では5月まで牡蠣剥きをし、春牡蠣として出荷できるようになっています。

また唐桑では牡蠣の身入りをよくするために「温湯処理」をする、という話も。温湯処理とは、船上の釜でお湯を沸かし、そこに一定時間牡蠣をロープごと浸け、また海へ戻すという作業だそう。それをすることによって、成長中の牡蠣につく付着物(ホヤやしゅうり貝)などは死滅し、牡蠣だけが元気に成長する環境にすることができるそう。
これを出荷シーズンに入る前の真夏の時期に1本1本すべてのいかだの牡蠣をやっていて、とても手間と時間がかかっているのが、この唐桑の牡蠣だ、と政則さんがお話してくれました。

そんな牡蠣ですが、今年は生育が思わしくなく、例年であれば9月末から出荷をしていますが、今年は10月12日から出荷が始まるとのこと。

それでもすでにこの身入り!これで生育がよくない、ということは、生育がいい状態はどんな状態なのでしょうか。。。ごくり。。。

次はいよいよ乗船です。
カッパに着替え、3年前に新造したという立派な船でいざ出港。

唐桑の海に浮かぶ牡蠣イカダは「垂下式イカダ」と「延縄式イカダ」の2つがあります。

垂下式イカダは比較的内湾で、1年目の牡蠣と、出荷直前の3年目の牡蠣をつるしています。まずはそこで出荷直前の3年目の牡蠣を見学。

3年目の牡蠣はとても大きく、むっちり。

「イカダの上、歩いてみる?」という政則さんの声に、参加者はおそるおそる木でつくられたイカダの上を歩いてみました。が、うまくバランスがとれず、イカダの上に立つことだけで精一杯。牡蠣のロープを引き上げる作業をすることなんて到底できそうにもありませんでした。やはり長年の経験なんですね。

唐桑では牡蠣だけではなく、ホタテやワカメの養殖もさかん。今回は特別にホタテのイカダにも行き、成長途中のホタテも見せていただきました。残念ながら現在ホタテは貝毒が出ているため、出荷制限されていますが、海の中では立派に成長していました。

浜での授業を終え、お昼の会場であるつなかんへ。

1日目に獲ったタコを使ったタコ飯やさっき見学した牡蠣の蒸し焼きなど、唐桑ならではの魚を存分に使った料理でした。

つなかんの女将自ら、牡蠣をひとつひとつ剥いてくれて。

「お昼からこんなに贅沢なご飯を食べられるなんて!」と参加者はただただびっくり。お腹いっぱい満足な昼食タイムとなりました。

お腹を満たしたら、いよいよ最後のワークショップです。

この2日間での経験を通して、今後自分がどのように漁業に関わっていきたいか、どんな漁師になりたいかを考えます。ワークシートをもとに、将来の目標に向かって数年後、数十年後どうしたいか、どうなっていたいか自分なりに計画を立てていきます。

沿岸漁師として独立したい。

魚屋を起業したい。

漁業に就きたい。

参加者たちは、漁師やスタッフからアドバイスをもらいながら自分の将来について真剣に考えました。2日間同じ体験をした3人ですが、出てきた答えはみな違います。できあがった計画をお互いに発表しあうことで、いろんな考え方や関わり方を知ることができたと思います。

すべてのプログラムが終了し、参加者3名に修了証が授与されました。

今回は天候が悪く、海は時化でとてもハードでしたが、海とともに生きる漁師という仕事のリアルを見ることができた2日間でした。

気仙沼ならでは「出船送り(航海の安全と大漁を願って岸壁から船を見送る)」のように福来旗をふって、電車が見えなくなるまで振り続けます。

「いってらっしゃ~~~い」

またいつか帰ってくる日を楽しみに。

 

今回初となった気仙沼市での開催。
これまでの参加者のうち5名の若者が、漁業就業を果たしています。また、開催後に担い手の受け入れを決意した漁師もいます。

「TRITON SCHOOL」は、漁師のリアルな仕事現場を見て、体験して、感じてもらう、きっかけの場所。そして、漁師たちにとっても新世代のフィッシャーマンを育てる意義を感じてもらう、はじまりの場所です。

私たちがこの海の寺子屋を通して体験してほしいのは、漁の豪快さや、船の上の爽快感だけではありません。
基本となるロープワーク、地道な陸の作業や力仕事、凍てつく寒さの中で行われる早朝の水揚げ--決して楽ではない、漁師の世界を余すことなく体験してもらいたい。「TRITON SCHOOL」は、さまざまな立場を越えて、みんなで漁業と向き合う特別な2日間です。

 

※次回「TRITON SCHOOL」は、2021年2月頃を予定しています。

 

 

文=歓迎プロデュース
撮影=Funny!!平井慶祐

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