釣り×水産加工でまちづくりに挑む。西伊豆の水産業の要「はんばた市場」の魅力をご紹介します。

釣り×水産加工でまちづくりに挑む。西伊豆の水産業の要「はんばた市場」の魅力をご紹介します。

山と海、ダイナミックな自然のマジック

伊豆半島の西側に位置する西伊豆町は、山が海の際まで迫り、火山活動の影響を受け複雑に入りくんだ海岸線と小さな島が点在、景勝地として知られています。

陽が沈む頃、駿河湾に面した黄金崎から見る夕陽は圧巻。岬が黄金色に輝き、自然が織りなす色彩のマジックアワーは、<日本一夕陽が美しいまち>にふさわしく、時よ止まれと思わず願わずにはいられません。

駿河湾の湾口部は、水深2,500m。日本の南を沿うように流れてくる黒潮が、伊豆半島南方の海底火山弧の隆起にあたり、その深い湾内に流れ込んでいます。沿岸の深い海と、多様な潮の流れ、天然林から流れる雨水などの影響を受け、周辺の水域は豊かな漁場となっています。

西伊豆仁科(にしな)漁港は、駿河湾を臨む伊豆半島南西部に位置する小さな港町。他の多くの漁村と同様、後継者不足や水産物の販路開拓に頭を悩ませていました。

しかし、今、仁科で新たな漁業を作ろうと動き出している人たちがいます。彼らは旧来のやり方に縛られる事なく、西伊豆に変化をもたらしています。

役場仕事に拘らないスーパー公務員

西伊豆での新たな動きを率いる人物がいます。地元・賀茂郡出身で西伊豆町役場まちづくり課に勤める松浦城太郎さん(40)です。子どもの頃からの釣り好き海好きが高じて、東海大学海洋学部に入学。卒業後は西伊豆町役場に勤め、静岡県庁の水産資源課に出向します。出向後は、総務課に戻り、県庁での経験を活かして「ふるさと納税」の導入に取り組みました。

「当時はまだ『ふるさと納税』の制度について知っている人がおらず、役場内でもの導入に疑心暗鬼でした。けれど、役場内でセミナーを開くと部署の垣根を超え、役場内の1/4の職員が参加。導入が決まると、事業者の賛同を得るためさまざまな部署の職員が駆け回りました。すると、静岡県内で1位の寄付額を達成することができたんです」

「ふるさと納税」では、干物が大人気。2020年10月の月別ランキングでも堂々県内1位で、コメント数も群を抜いて多く、人気ぶりは明らかです。この事業での成功体験が、役所仕事の限界を超え、西伊豆のために率先して行動するという松浦さんの仕事ぶりに繋がっています。

 

地産地消目指し、はんばた市場設立

松浦さんが現在取り組んでいるのが、地元でとれた水産物の販路開拓と後継者不足の解決です。これまで地元の魚であっても、地元では売れず、築地や豊洲に輸送費をかけて送っていました。輸送費が高いため、漁師に入るお金はほんの少し。このまま地元での消費が伸びなければ、漁師が西伊豆からいなくなってしまう。松浦さんは危機感を抱きました。

「西伊豆が流通の主導権を握り、順当な利益を得ながら海産物を販売できるような土壌をつくりたいと思いました。そのためには、新たな販路開拓も必要ですが、まずは地元住民の「地産地消」が重要になるなと」

松浦さんはすぐに行動を開始。2020年5月に西伊豆堂ヶ島産地直売所「はんばた市場」がオープンしました。「はんばた」とは西伊豆の方言で、海のすぐそば「浜端」を指します。目の前がすぐ海の市場にはぴったりのネーミングです。

漁師が水揚げすると、30秒ほどで市場にダイレクト納品も可能。手際よく締めて処理した魚は、熟成して飴色になり、味が濃く超美味。新鮮な刺身の他にも、「凍眠」という冷凍技術を用いることで、抜群の鮮度を保ったまま加工を行っています。

他にも、西伊豆でしか作られなくなった「しおかつお」や干物などの加工品。季節の野菜はもちろん、世界産業遺産に認定された「静岡本わさび」なども販売中です。

地域商社としてのはんばた市場

はんばた市場は、地産地消の地元市民のスーパーとしての役割はもちろん、魚を買い付ける仲買としての機能も果たしています。西伊豆では海産物を買い付ける仲買人が減少し、魚屋が不在。はんばた市場が、買付から販売まで一括して行い、販路をコントロールする施設となっているのです。そのため、地元漁師からの評判も上々です。定置網漁業を営む塩徳丸の船長・塩谷奉民さん(57)からも喜びの声が。

「市場では値段がつかない魚にも、はんばた市場ではちゃんと価値を付けてくれる。例えばナンヨウカイワリ(アジ科)という魚は、味が淡白すぎて市場では値段がつかねえ。でも、ちゃんと手をかけると美味しくなる。魚に詳しい人たちの中では密かに人気がある魚。一度、西伊豆にきて食べてほしいね」

他の地域では値段がつかないこともあるシイラも、フライにして販売するとお客さんから好評。今でははんばた市場のレギュラー商品です。

また、はんばた市場では、定置網に入ったいい個体を選別、東京神田で西伊豆出身の店長がやってる居酒屋「あじすけ」に納品しています。西伊豆界隈の出身者がアルバイトに来たり、お店の常連さんが西伊豆に遊びに行ったりと、東京と西伊豆を繋ぐ場も設けています。

はんばた市場が、西伊豆の重要な地域商社として機能することで、漁師にとってもいい影響が出るような仕組みづくりを行っているのです。

「釣り」を漁業とまちづくりに活かす

はんばた市場での取り組みは、漁業の枠組みに止まりません。まちづくりにも大きな貢献をしているのです。そんな取り組みの一つが、釣り人の釣った魚を地域通貨で買い取る<ツッテ西伊豆>。買い取りの対象となるのは、提携船で釣れた品質管理をしっかり行った魚のみ。この取り組みは日本初であり、西伊豆町と釣り人のどちらにもいい効果をもたらしています。

「西伊豆町にとっては、減っている漁師の代わりに魚を獲ってもらえる。釣り人にとっては自分が釣った魚を買い取ってもらえ、漁師気分も味わうことができる。単なるレジャーに止まらないところが<ツッテ西伊豆>の強みです」

 買い取った魚は西伊豆町の電子地域通貨「サンセットコイン(1ユーヒ=1円)」と交換、西伊豆の飲食店や宿、釣り船、土産屋などで使うことができます。地域の特色である海を単なる釣り場としてではなく、町に立ち寄り、食事や温泉など西伊豆町を楽しむ工夫が施されています。

よそ者だからこそ伝えられる西伊豆の魅力

西伊豆町は、まちづくりの取り組みの魅力から、新風を巻き起こす仲間たちを呼び込んでいます。釣り好きな千葉県出身の小山優香さんは、2018年5月に移住してきました。西伊豆地域おこし協力隊として活動した後、現在は伊豆うまいもん本舗合同会社ライズの職員として勤務。前職のスキルを活かし、情報発信やECサイトやネット販売業務を担当しています。

「この土地ならではの田舎らしさは大事な魅力ですが、何か新しいことに取り組もうとする意識が薄いなと感じることはありました。もともと私もお客さん側だったから見えていた点と、実際に住んでみて漁協や地域の方とのつながりの中で得た情報もたくさんあります。それを私が得意とするITスキルを活かし、『西伊豆イケてるね』という雰囲気をつくっていきたいですね」

これまで、西伊豆町役場では、数多くのよそ者を受け入れてきました。小山さんのように自分のスキルを西伊豆で活かしたい人。漁師の担い手となる人。釣りが好きな人。彼らが地元に溶け込めるように、町役場が全面的にバックアップしています。

西伊豆には、シーカヤックやダイビング、サーフィン、トレッキング、もちろん釣りなど、魅力溢れるアクティビティも充実しています。仕事を覚えたら、ネイチャーガイドとの兼業も可能です。

都会の生活は、少々窮屈になってきたと感じていませんか?
雄大な海を眺め、山の木々で季節の移ろいを感じる。
一日の仕事を終え、海に目をやると、日本一の夕景があなたの目の前に広がっています。

ぜひあなたも西伊豆の漁業に関わってみてください。

 

(取材・記事制作:2021年)

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