これまでたくさんのひとから、「漁師になるにはどうしたらいいですか?」という相談を受けてきました。
いろんな方法があると思いますが、私たちが推奨するプロセスは以下の通りです。
①情報を集める・相談をする(やりたい漁業をイメージをする)
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②漁業体験や現地ツアーに参加する(さらにイメージを固める)
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③就業前に事前研修を行う(ミスマッチをなくす)
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④就業決定(弟子入りor乗組員になる)
特に大事なのは、就業前の情報収集です。
漁師の世界の扉は決して閉ざされているわけではありませんが、少し見つけにくいところにある上に、複雑な事情や地域性、わかりにくさをはらんでいます。
それぞれの地域に、私たちのようなコーディネーターがいる場合もありますので、まずはそういう人を探して頼るのも良いでしょう 。
私たちはいくつかある漁師の道への扉を教えるだけの、いわば案内人。
どの扉を開くのか、決めるのはすべてあなた自身です。
まだまだ前例の少ない新規漁業就業事例を自分自身が作っていくんだ!これくらいの気持ちで望みましょう。
ここでは、漁師の世界の入口に立つまでのいくつかのポイントを紹介します。
まずは立場別に、少しお話をさせてください。
学生のあなたへ
以前、中学生の男の子のお母さまからこんな相談を受けたことがありました。
「息子が中学卒業後、漁師になるから高校は行かないと言って困っています」
親の船を継ぐというのであれば、強く止めはしなかったかもしれません。
しかしながら、その男の子は漁師の息子でもなく、ましてや一度も漁船に乗ったことがありませんでした……。
漁師の仕事は、「働きながら学べる」というのがいいところでもありますが、逆に言えば、健康な体とやる気さえあれば「いつでも働ける」仕事でもあります。もしあなたがすぐに働かなくもいい状況であるのなら、もう少し社会に守られていてください。学校でしか学べないことはたくさんあります。
それでも、「漁師になりたくていてもたってもいられない!」という人は、水産高校への進学をおすすめします(さらにその先には水産系の大学や漁業を学ぶ専門機関もあります)。水産高校では、水産業の知識を得たり、漁業に必要な資格も取得できます。また、地域の漁業バイトや就業先を紹介してもらうこともできるかもしれません。社会へ飛び出す一歩手前、この3年間を存分に利用しましょう。
最近では親身になって進路を一緒に考えてくださる先生もおり、水産高校だけでなく、農業高校や工業高校、普通高校からも相談をいただいています。
実際に高校在学中に就職活動を行い、卒業後に就業をする若者も増えてきました。
どんな高校の学生であったとしても、漁師の世界に興味を持ったら、まずは情報収集からはじめてみましょう。
漁業体験なども見かけたら、どんどん参加してみると良いと思います。
そしてひとつ、お願いがあります。
君たちの未来の可能性は、無限にあります。
そんな君たちの可能性を楽しみにしている大人がたくさんいることを忘れないでほしいのです。
漁師の仕事は、常に危険と隣り合わせでもあり、普通の人にとっては未知の世界です。だからこそ、仕事のことをきちんと調べ、周りの人にも相談をしましょう。親御さんや学校の先生とも納得するまで話して、了承を得た上で、海の世界に飛び込んできてください。たくさんの人の理解があって、漁師の仕事は成立しています。
ぜひ身近な人を、あなたのサポーターとして巻き込みましょう。
社会人のあなたへ
私たちが今までサポートしてきた人の8割が、社会人経験者です。
「ずっと憧れていた」
「1次産業に携わりたい」
「海や釣りが好き」
「祖父が漁師だった」
理由は人それぞれ。それぞれが熱い思いを持って問い合わせをしてくださいます。
いろいろな経験をしてきた上で漁師になろうという熱い思いがあるみなさんだからこそ、一旦冷静になって考える必要があります。
まずお願いしたいのは、「漁師になるんだ!!」と言って、今の仕事を勢いで辞めないでください。何度もお伝えしている通り、まずは情報収集が肝心です。
どんな地域で、どんな漁業に携わりたいのか。
ゆくゆくはどんな働き方がしたいのか。
お金は?住まいは?家族は?
せっかく好きな仕事に就こうというのであれば、イメージができるまで何度も現場に足を運んだり、地域を比べてみたり、時間をかけてほしいのです。
漁師の仕事をゼロからはじめる場合、今までのキャリアも全て関係がなくなり、1年生からのスタートになります。また漁師の仕事は、すべて覚えて一人前になるのに最低でも10年はかかると言われています。
時々、求人の応募と同時に、早まって仕事を辞めてしまう人もいらっしゃいます。
もちろん仕事のキリの良いタイミングなどもあると思いますが、もし並行して頑張れるのであれば、就業先の目処がつくまで、仕事を辞めないでほしいのです。
仕事を辞めてしまうと、収入もなくなり、さまざまな支払いも個人で行うことになりますから、早く仕事を決めなくては……と、どうしても気持ちにも焦りができます。
情報収集には時間をかけ、就業は焦らず、計画的に。
私たちがサポートしてきた中には、1年から2年という年月をかけて就業を決めた人もいます。
荷物ひとつで、あるいは車ひとつで。
まずは現地に飛び込んでみましょう。
第二の人生を考えているあなたへ
定年退職後に漁師の道を考えているという人も中にはいらっしゃると思います。
担い手育成事業を掲げている自治体の多くは、地域の漁業者の若返りを図るために取り組んでいるところも多く、また漁業の仕事は体力勝負といわれていることもあり、すぐに就業先を見つけることは難しいかもしれません。
それでも諦めないでください。
あなたを必要としてくれる地域は必ずあります。
まずは経験不問、年齢制限を設けていない自治体を探しましょう。
過疎化の進む自治体や、町の基幹産業である1次産業従事者が大幅に減って困っている自治体などが、制限を設けずにサポートしている場合があります。もしくは、親戚や知り合いがいる(交流がある)地域などを頼ってみるのもよいでしょう。
新規で漁業権を取得するには、自分を漁業者として指導してくれたり、地域の一員として推薦してくれる漁業者が必要です。
この場所なら…
この人たちと一緒なら…
そう思える場所が見つかるまで。
ゆっくり時間をかけて情報を集め、地域の人と信頼関係を築きあげていきましょう。
また、晴れて漁業者になれたとしても、すぐには十分な収入を得られないことも考えられますので、ある程度の蓄えを作っておくことや、プラスアルファの収入源を考えておくことも必要だと思います。
情報収集のすすめ
今の時代、ほとんどの皆さんはインターネットで情報を収集すると思います。
残念ながら漁業就業に関する情報はさほど多く転がっていないかもしれません(あったとしても、わかりにくいと思います)。
それだけ漁師の仕事は多様であり、地域によって特色があります。
情報収集のポイントとして、まずは広く浅く情報を集めることをお勧めします。
代表的なサイトが、全国漁業就業者確保育成センターが運営している「漁師.jp」です。
このサイトでは、漁師の仕事の紹介のほか、全国各地の求人情報やイベント情報が掲載されており、また年に数回、全国規模の就業フェアも開催しています。
就業フェアには、各地域の情報もたくさん揃っているので、機会があれば足を運んでみるのもよいでしょう。
運命の出会いがあるかもしれません。
はじめは広く浅くでもいいのですが、「なんとなく海の仕事がしたい」というよりも「ここはこだわりたいな」という思いがあったほうが、取捨選択ができ、希望する仕事が見つけやすいこともあります(もちろんこだわり過ぎはよくありませんが…)。
「この地域で就業したい」
「将来は独立したい」
「養殖よりも漁船がいいな」
情報収集をする中で、何かひとつでもこだわりを見つけられるようにしましょう。
条件に関して、優先順位をつけることも大事です。
そのあたりは、お部屋探しに似ているかもしれません。
先のコラムで伝えてきたように、漁師の種類は多種多様です。
どんな漁師になるにしろ、最初は必ず誰かの下で働くことになりますから、きちんと指導をしてくれる人、なんでも相談できる親方(船)を選びましょう。
地域選びのポイント
そして、地域を選ぶ際のポイントもいくつかあります。
地元に戻りたい、知り合いがいる、この漁業がやりたい、この街が好きなど、その地域を選ぶ理由があるのであれば、それを大事にしてください。
特に地域にこだわらない人は、住みやすさやサポート体制などをチェックするとよいでしょう。
サポートの部分でいうと、新規漁業就業に関しては国の支援制度・研修制度のほかにも、各都道府県や自治体ごとに漁業体験を行ったり、新規独立の補助を用意していたり、移住する際に支援金を出したりと、さまざまなメリットを打ち出しています。
過疎、高齢化が進む地域になればなるほど、町をあげて施策を行っていたり、もっと大きな県という単位で新規漁業就業者の確保をサポートしている地域もあります。
新しく漁師の仕事をはじめるには、さまざまお金がかかりますので、補助金など利用できるものは賢く利用するするのがおすすめです。
しかしながら補助金関係は、漁業就業しなかった(一定期間従事しなかった)場合、返金の対象となる場合もありますので、「絶対にこの仕事をするんだ」という強い気持ちのもとで利用することをおすすめします。
お金を貯めよう
ちょっと脱線して、漁師のお金まわりのお話をします。
うまく漁業権を手に入れられたとしても、漁師はとにかくお金がかる仕事です。
たとえば、小さな船を中古で買うだけでも50万円前後。養殖の作業ができる大きな船になると0が一桁増えます。
さらに大きな船(漁船漁業)となると、1000万〜1億越えはあたりまえ。
身の回りの道具も、意外と高額なものが多く、たとえば漁業の現場でよく見かける万丈篭(バンジョウ)も1つ2,000〜3,000円もしますし、ロープ1本にしても同じことが言えます。
最近正組合員になって自分の筏を持った新人漁師も、ロープ、牡蠣樽(浮玉)、万丈篭などの基本的な漁具を揃えるだけで、150万円はかかっているそう。
これらの漁具は、親方からもらう給料から毎月積立していた預金や、石巻市の新人漁師への補助事業を利用して購入しました。
初期投資だけでなく、最初の出資金、船の燃料費、機械のメンテナンスや資材代と、日々の経費はかさむもの。
とにかく自分一人でやろうという人は、日頃から経営者になるべく金銭感覚を磨くこと、そしてお金を貯めることや、中古で譲ってもらうための人間関係(情報網)をつくっておくことが必要と言えます。
使命は、フィッシャーマンを増やすこと
「こんなはずじゃなかった」
そうならないためには、やはり情報収集と、現地に足を運ぶということが大事になってきます。
私たちはこの世界の案内人の端くれです。
フィッシャーマン・ジャパンとして活動する中で、全国各地のフィッシャーマンと繋がりを持ってきました。
もし誰に相談をしたらいいかわからない!情報が見つけられない!という悩みを抱えている人がいたら、いつでも私たちにご相談ください。
可能な限り。
あなたの扉を一緒に探すお手伝いをします。
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