日本は島国です。
美しいサンゴの海、荒れ狂う冬の日本海、穏やかな瀬戸内の海、入り組んだリアス式海岸を臨む太平洋。多種多様な海に囲まれた日本では、太古の昔から海のすぐそばで営みが生まれ、人々は海からの恩恵を受けながら暮らしてきました。今でも海の近くには、たくさんの文化や歴史、信仰や神事が色濃く残り、暮らしの基盤をつくっています。
マグロ、秋刀魚、鮭、牡蠣にウニ。
ちょっと贅沢な一品から、毎日の食卓でおなじみの海産物まで。
四季折々の海の幸を届けてくれるのが、漁師の仕事です。
長い年月をかけて世界の海を渡る「遠洋漁業」。
日帰りで行う「沿岸漁業」。
魚を獲る「漁船漁業」に海産物を育てる「養殖漁業」。
獲るものも、マグロやサメ、カジキといった大きなものから、シラスやアサリといった手の中におさまる小さなものまでさまざま。そして自分で船をもって漁業を営む人もいれば、乗組員(従業員)として働く人もいます。
こうして考えてみると、漁師ほど多様で特殊な仕事はないかもしれません。
さて皆さんの描く漁師はどんなイメージでしょうか。
漁師の仕事は歴史的に見ても古く、縄文時代はたまた古墳時代から生業として営まれていた職業と言われています。私たちの身近にずっとあった仕事のはずなのに、実際は見えない・知らないことが多く、一度彼らが海の上に出てしまえば、家族ですらどんな作業をしているかわかりません。
危険と向きあいながら、私たちの食卓に豊かな海の幸を届けてくれる漁師たち。その働く姿は誰よりもきっと「かっこいい」はず……。
「TRITON JOB」は、知られざる漁師の仕事を紹介していくサイトです。
このサイトを通して、多くのひとが持っているぼんやりとした漁師のイメージが少しずつ象られ、カラフルに色付けられていきますように。そんなことを願っています。
減り続ける漁業者
かつて1961年に70万人いたという日本の漁師は、1992年に32万人まで落ち込み、2018年には15万人にまで減っています。さらに追い討ちをかけるように、漁業従事者の半数が60歳以上という統計も出ました。
定年がないところが漁師のいいところですので、まだまだ元気で稼げる人がたくさんいるんだなと安心したいところですが……一方で39歳以下の割合は全体の2.7%。驚きの数字です。
(水産庁のHPより転載)
実は日本で食べられている魚の半数が輸入品です。
昨今は日本人の魚離れが叫ばれていますが、日本は世界的に見ても魚をたくさん食べる国であり、輸入に関しては EU、中国、アメリカに次いで多く輸入をしています。
お魚大好き日本人。ではその食卓を支える漁師はというと……
10年後。はたまた20年後。
日本の漁業、私たちの食卓は、どうなっているのでしょうか。
漁師が減ってきてしまっている原因をいくつかあげるとすれば、まずは魚自体が減ってきてしまっているということがあげられます。これによって廃業に追い込まれたり、稼げないからと辞めてしまう人が増えているのが事実です。同時に、親から子へと脈々と受け継がれてきた流れが変わったこと(仕事や生き方に関してたくさんの選択肢をもてるようになったこと。これは決して悪いことではありません)も影響しているといえるでしょう。
個人的な肌感覚でもうひとつ理由をあげるとすると、先にも述べたように漁師の仕事の「わかりにくさ」と「特殊性」が関係しているように思います。
たとえば同じ1次産業であれば、漁業よりも農業のほうがポピュラーです。
多くの人は、おばあちゃんの畑のお手伝いをしたり、夏休みに野菜をプランターで育ててみたり、そんな経験があるのではないでしょうか。農作物の育て方に関する書籍も本屋さんにたくさんありますし、育て方がわからなければ近所のおじちゃんに聞けば親切に教えてくれます。誰しもが一度は「それらしきもの」を経験したことがあるのが農業だとすれば、漁業はやっぱり「未知なる世界」なのです。
ひと昔前には、親戚、知り合い、ご近所さんと、どこかしらに漁師は存在しました。
残念ながら、漁師の数が減っている今、子供たちにとって漁師は「絵本やテレビで見る人」になりつつあるのです。
新規参入の難しさと、新規参入の大切さ
「漁師いないんでしょ?じゃあ、俺がなってやるよ」
そんな風に思ってくれる人も、なかにはいるでしょう。
漁船漁業であっても養殖漁業であっても、ある経営体の一部となって働くことは、比較的難しいことではありません。働く場所さえ見つければ、明日からでもあなたは海の仕事ができます。
しかしながら、自分で船を持って漁業を営むためには、「ある日突然」というわけにはいきません。
海はみんなのもの。
だからこそ、そこにはたくさんのルールがあります。
船で魚を獲るにも、養殖物を育てるにも許可や権利が必要です。
大規模な漁業は国や県の許可制となっており、漁業権のもと営む沿岸漁業においてはその浜を管轄する漁業協同組合が漁業権の管理を行っています。すなわち漁業権の取得は、「地域の漁業者に認めてもらう」ということが大前提にあるのです。
漁業を営む親からその子供へ事業継承することは容易であっても、外からやってきた移住者が新規に権利を取得することの難しさはこういったところにあります。
これもまた、漁師の仕事の特殊性です。
2020年12月に70年ぶりに改正された漁業法は、漁業の持続性や生産性を高めることを目的としており、既存の漁業者を守りつつ、有効に使われていない漁場に関しては「地域の水産業の発展に最も寄与すると認めれらる人」に免許が認められるようになるものです。これから新規参入者にもチャンスが増えてくると思いますが、まだまだ漁業権の部分に関しては、保守的な一面があります。
「そんなに厳しくするから、漁業者が減るんじゃない?」と思われるかもしれません。
誤解がないように、もう一度言います。
海はみんなのもの。
だからこそ漁業者たちがルールを決め、守っているのです。
「よそ者」が地域に受け入れられ、その土地の漁業者として認められるには、たくさんの時間がかかります。それでも少しずつ、新しく漁師の道を歩きはじめた若者たちを、私たちは見てきました。
その数は毎年減っていく漁業者の数には到底追いつかないかもしれません。
しかし、彼ら一人ひとりが持つ影響力の大きさを、私たちは知っています。
新人漁師を受け入れた、ある親方漁師がこんなことを言っていました。
彼らは「金の卵」だと。
これからの水産業は「量よりも質」の時代がやって来ます。
新しい時代に向け、一人ひとり思いを持った新しい時代のフィッシャーマンを育てること。
これが私たちの使命だと考えています。
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