宮城県石巻市。牡鹿半島にある竹浜で小型定置網とワカメ養殖を営むのが、武田海産の武田嘉(たけだ・このむ)さんです。
御年76歳になる武田さん。
18歳で大型漁船の乗組員となってから、かれこれ60年に渡って、漁業の第一線に立ち続けてきました。
海の上では厳しい表情を見せる武田さんですが、陸にあがれば柔和な笑顔。
会うたびに口癖のように、「ご飯でも行くか?」と気さくに声をかけてくれます。
長い漁師人生を誇る武田さんは、このたび新しいことに挑戦します。
それは「事業継承」。
息子でも親戚でもない、この浜の人間でもない。
それでも武田海産の心と技術、そして操業に関わる一切を受け継いでくれる人を、一から育てたいと考えています。
「仕事っていうのは3ヶ月もやれば必ず覚える。わからないことは周りに聞けばいい。でもまずは人間づくりだよね。漁師の仕事は、やっぱり人と人との繋がりが肝心だから。そのへんも含めて、自分が教えられることをすべて教えてあげたい」
そう語る武田さんは、実にいきいきとしています。
「後継者を育てるぞ」と決心した途端、その子が困らないようにやりたいことがたくさん出てきたのだとか。
そのひとつが新しい網づくりです。
竹浜は冬場は波が荒いため、細かい網目のものは波の影響を受けて壊れやすく、漁をすることができませんでした。そこで、冬場の海でも耐えられる、太い糸、大きい目合いで編んだ頑丈な網をつくることにしたそうです。この網で、魚体の大きい魚を狙います。
「これから働く子も、将来に希望が持てなかったらやる気起こらないでしょ。ずっと思ってきたことをようやく実行する気概がでてきた。今からワクワクしながら、新しいシーズンを迎えられそう」
常に現状に満足せず、なんとかしたいな、もっとよくしたいな、という向上心で溢れる武田さん。その不屈の精神は、長い漁師人生で培われたようです。
人間性を育ててくれた
漁師という仕事
「近海まき網に、カニカゴ、マグロの底はえ縄、アラスカやカナダでの魚の買い付け。いろんなこと経験したね。ソビエトの4万トンの巨大な船にも乗ったし、足がすくむようなベーリング海も経験した。カニカゴのときなんて、カニを茹でる釜や冷却装置なんかも自分たちでつくらなくちゃいけなかったからね。水揚げも、どうやったら効率よくなるかっていうのを何年もかけて工場長とやりとりしてつくりあげたんだ」
船長、漁労長をはじめ、「長」がつく船の役職は全部経験したという武田さんも、最初はもちろん甲板員からスタートしました。しかしすぐに「甲板長」に抜擢されたそうです。
「当時の甲板員は現役バリバリの20代の若者が揃っていて、18、9の俺が抜擢されたもんだから、いじめもあったさ。それに負けないように働いた。休んでなんかいられなかった」
昔を振り返る武田さんは、どんなに辛い話であっても、楽しそうに話ます。
船の上での一つひとつの経験が、今の武田さんを作ってくれたそうです。
「いちばん怒られたし、いちばん可愛がってもらったと思う。いい先輩に恵まれたなぁって。そうやってたくさんのことを教わってきたから、今度は自分が若い人たちに返してあげる番。今、コロナ渦になって思うのは、人と人との繋がりが希薄になってしまったということ。やっぱり人との繋がりがないと、人間は成長しない。漁師の仕事も実は対人関係が重要。まずは人間づくりからだよね。仕事はやれば覚えるから」
40歳手前で船を降り、浜に戻った武田さん。浜の生まれ育ちであっても、風当たりは強かったそうです。
「浜はよそ者を受けいれない文化が昔からあるんだけど、浜で育った自分でさえよそ者扱い。でも、うるさく言う人たちはもう引退していなくなった。震災後、この浜の漁業者もずいぶん減ったし、よそから来て頑張っている若者もいる。浜の受け入れ体制が整ってきた。頑張ってる子は、全力で応援してあげないと」
竹浜には、2019年に東京から移住してきた若者も働いています。
毎日一生懸命働く姿を、武田さんも眩しく見ているのだとか。
竹浜で定置網を行っているのは武田さん含め2軒。
浜のほとんどの漁師が牡蠣養殖をメインで行っているため、さまざまな情報源は牡蠣漁師たちのもとにあるそう。
「定置網の仕事がまわせるようになったら、少しでもいいから牡蠣養殖もできるようにしてあげたい。そうしたら共同作業とか、ほかのひとたちと関わることも増えるから」
「人間をつくること」
それが、一人前の漁師になるいちばんの近道だと武田さんは考えています。
海に惚れた男の新しい挑戦
ここで改めて武田海産でのお仕事を紹介します。
現在は、3〜11月が定置網、そして冬場はナマコ漁やワカメ養殖を行っています。新しい網ができれば、冬の水揚げにも挑戦したいといったところ。
小型定置網は、魚の通り道に障壁となる垣網(かきあみ)を設け、魚が出られないように複雑に作った身網(みあみ)の先端にある箱網(はこあみ)に魚を集めて、タモですくいあげます。
水揚げをするには、最低でも3人必要となるため、まずは事業継承の要となる担い手を育てながら、自分が船で働けるうちにあと2人、人を育てたいと考えています。
「定置網はいろんな魚が入るからおもしろいよ。ロープの結び方ひとつとったって、いろんな結び方があって、奥が深い。大漁だったときは、浜で飲む缶コーヒーも格別うまいんだ」
武田海産では、カツオ船の餌となるイワシを漁獲するのがメインですが、目合いの大きい網を準備しているように、これからはさまざまな魚を活かして獲ることにも挑戦したいそう。
実は武田さんの魚を待っているのは、取引業者さんだけではありません。
「この間、ちょっと珍しい魚が入って。息子が仙台の水族館に電話したら、引き取りにきたんだ。そこからいろんな魚を頼まれるようになってね。『欲しい魚リスト』なんて送られてきたんだよ(笑)」
水族館の大水槽で優雅に泳ぐ、自分が水揚げした魚。
想像しただけでも、なんだかワクワクします。
漁師人生のすべてを、次の世代へ
今回募集するのは、武田海産を受け継いでくれる、事業継承者。
自分でやってみたい!という強い思いがあることが応募条件です。
まだまだ家族ではない人への事業継承が少ないのが実情ではあります。
もちろん、一筋縄ではいかないこともたくさんあると思います。武田さんはそれを全力サポートしていくつもりです。
「興味がある人がいたら、とにかく一度一緒に船に乗ってもらって、自分で獲った海の幸を食べてもらいたいね。どんな高級レストランも、現場で食べる味には勝てない。海が好きで、漁師の仕事が魅力的だと思う人に来てもらいたいな。好きじゃないと続かないから」
漁師人生を賭けた、最後の大きな挑戦。
その挑戦を一緒に成し遂げてくれる方の応募をお待ちしています。
※定置網漁の写真は2016年に撮影(撮影=Funny!!平井慶祐)
写真・文=高橋由季 ※取材は2023年1月に行いました
給与 | 20万~25万円 ※試用期間3ヶ月は月給 200,000円 |
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勤務地 | 宮城県石巻市竹浜 |
勤務時間 | 3〜11月定置網5:00 〜 12:30(実働 7時間)、 12〜1月網直し、ナマコ桁曳き7:00 〜 14:00(実働 6.5時間)、 2月ワカメ5:00 〜 10:00(実働5時間)※漁業のため、天候・季節・状況によって変動あり |
休日休暇 | 日曜休み、お盆・年末年始あり(各5日程度) |
募集期間 | 2023年03月13日(月)~2024年01月25日(木) |
その他 | 将来的に事業を継承し、小型定置網を操業したい!というやる気のある方を募集します。 |
会社名 | 武田海産 |
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住所 | 宮城県石巻市竹浜字磯棚4-2 |
社員数 | 3人 |
選考方法 | 応募 ▼ フィッシャーマン・ジャパン担当よりメールにて連絡 ▼ LINE登録 ▼ 写真付履歴書の提出(書類選考) ▼ オンライン面談(事務局、募集主と複数回行う場合があります) ▼ 現地面談 現地研修(1週間程度) ▼ 内定 |
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