縁起のいい魚として珍重されている鯛。婚礼をはじめ、一生食べることに困らないようにと赤ちゃんの健やかな成長を願い行われるお食い初めには、鯛は定番です。真鯛の漁獲量の約80%が養殖で、三重県は全国4位(※1)と常に上位をキープ。さまざまな生産者が真鯛に与える餌に趣向を凝らして、ブランド真鯛を育てています。
三重県南伊勢町は、山と海の自然にあふれ伊勢志摩国立公園内にある町。リアス海岸の入り組んだ地形で、隣の漁村との距離があり、地区それぞれに独自の文化が息づいています。漁港のひとつである五ヶ所湾迫間浦(はさまうら)漁港で真鯛の養殖が始まったのは30〜40年ほど前から。
父が産んだ最高の鯛ブランドを継承
迫間浦にある株式会社南勢水産の『お炭付き鯛』は、養殖真鯛独特の脂肪分が少なく臭みがないため、好評を得ています。お炭付き鯛の産みの親は、先代社長の舌古(ぜっこ)幸夫さん(74歳)。
ブランド化していくために、消臭効果と老廃物の吸着効果をもつ竹炭粉末を餌に混ぜることを思いつきました。その思惑は効果的面、生臭みが抑えられただけでなく、脂肪分も抑えられ身が締まった養殖真鯛『お炭付き鯛』が誕生。2004年に南勢水産の主力商品になりました。
現在は、3人の息子たちが事業を継承。長男の一樹さん(50歳)が社長を継いで営業と運送を担当、次男の大樹さん(47歳)が事務として支え、三男の勇樹さん(42歳)が生産を担当しています。
30台近くある養殖筏には、20-30万匹ほどの真鯛が成長サイズに合わせて分けられています。主な出荷先は近県市場や旅館など。活魚の状態での出荷がメインですが、お客さんの要望に合わせて締める作業をすることもあります。
「親父が始めたことやけど、俺らの代に渡してもらった素材としては真鯛養殖の設備と技術、売り先やトラック。それにあの人が育てたお炭付き鯛。これは最高のものだから、大事にせなあかんと思ってる」と今回取材をさせてもらった勇樹さんは語ります。
出荷作業を終えて餌やりにいく途中、真夏日の暑さの中、独りで作業をする父・幸夫さんのもとへ。
「親父、暑さに強くて、寒さに弱いんよ。熱中症の心配はしてへんけど、冬はそんなに着込んで海に落ちたらどうするん、上がって来れんやんってくらい服着るんさ。もう歳やし、仕事の量少しずつ減らしてるんやけど、絶対に海からは離れへんから、お炭付き鯛を育てるのにずっとこだわってきた餌やりの作業任せてるんさ」と父のことを気にかけます。
コロナ禍で卸売以外に新しい販路として小売事業を拡大した南勢水産。養殖業やお炭付き鯛のプロモーション活動をさらに推進していくために、地域おこし協力隊の制度を活用して一緒に働く仲間の募集をしています。
「ネットでお炭付き鯛を販売したらお客さんから評価があって。自分では美味しいと思っていたし自信はあったけど、どうしても卸売が中心で、お炭付き鯛ブランドを差別化できへん、評価してもらわれへん状況がずっと続いてて。親父の残してくれたお炭付き鯛のブランディングに取り掛かれてなかったのがずっと気になってて、一緒に広めていってくれる人を探してるん」とこれから挑戦したいことを教えてくれました。
不毛な時代も自分の糧に
今ではすっかり漁師の風格漂っていますが、高校卒業後にバンド仲間に誘われて上京。フリーターをしながら、ミュージシャンを目指して活動していたとか。
「不毛な時代やったけど、好きなようにさしてもらったあの時間は宝物。何でもない毎日やったけど、自分に蓄積されてる。25歳まででバンド活動は終わってしもうたけど、好きなスケボーはそっからも頑張ってて。30歳の時に全日本のアマチュア出場資格がもらえて、プロになれるかもって時があったけど、諦めて家業継いだんさ」
漁師の顔と同じくらい、もしかしたらそれ以上に勇樹さんを駆り立てるのがスケボー愛。プロスケートボーダーの道は諦めたけれど、南伊勢町にスケボーパークをつくるという新しい夢が今、現実になっています。
廃校になった学校内の空き地をスケボーできる場所にできたら素敵じゃない?という話に興奮し、自分も関わりたい!と勇樹さんは手を挙げました。
「勝手に作られて、プレーヤー目線じゃない使いにくい場所にはしたくなかった。形になりつつあって、スケボー教室も開催して、子どもたちも集まってきて。町長に直談判して町からお金の支援してもらったりしてて。仕事も大事なんだけど、こういう遊びの部分も一生懸命やりたい」
校庭の端の広々とした完成間近のスケボーパークに、子どもたちの楽しそうな声が響いています。
子どもたちと一緒にひとしきりスケボーを楽しんだ妻・さくらさん。勇樹さんの良き理解者であり、新しい挑戦をともにするパートナーでもあります。
「お炭付き鯛を使った鯛サンドを企画して、月一回出店してて。ちょっとおしゃれにお炭付き鯛を食べてもらって、それが月2回になり、ゆくゆくはお店出せるようになったらいいなって。お炭付き鯛は本当に美味しいから。もっともっと広まっていけたらいいなって。卸し事業も小売事業も何かあった時にカバーし合って、うまいこと協力しあえたらいいんじゃないかな」と勇樹さんの仕事を支えています。
一緒に夢を現実にできる仲間よ来たれ!
「ひとつのことに熱中してしまうから、ひとつずつしかできんのよ」と話す勇樹さん。スケボーパークの完成が見えてきた今、次にするべきことも決まっています。
今回の地域おこし協力隊の募集は、南勢水産で真鯛養殖の担い手として「お炭付き鯛」のブランディングを盛り上げてくれる仲間を集めるためですが、南伊勢町という地域を楽しんで暮らしてほしいと考えています。スケボーパークの運営や祭りの企画もやってるし、付随する活動にも一緒の温度感で楽しんでもらいたい。鯛サンドを手始めに、お炭付き鯛のブランドをもっと多くの人に知ってもらうために、南勢水産の中で外向けの活動も一緒にしていきたい。
「人を育てるって何事にも変え難いじゃないですか。単純に労働力というよりは、よそから来た人がこの地に根付いて、それが僕自身の財産にもなっていくって思う。真鯛養殖はもちろん、オフの部分も大事にしていきたいし、そういうのも含めて繋がれたら嬉しいね」
夕焼けが山の端の陰影が鮮やかに彩りを変え、陽の光が勇樹さん一家の頬を赤く染めていました。明日はきっと、山の緑と海の青が照り映える晴れやかな天気になるでしょう。
勇樹さんを見ていると、オンもオフも目一杯楽しめる南伊勢町の暮らしに染まってみたくなります。
※1 令和3年 海面漁業・養殖業生産量(農林水産省)
2022年7月取材・撮影
写真 平井慶祐
文 藤川典良
募集職種 | 漁師 |
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雇用形態 | 正社員・フルタイム |
給与 | 年収270万円 南伊勢町地域おこし協力隊の活動報酬に準ずる 報償費 年間2,700,000円 ※活動日数:月20日程度 |
福利厚生 | 労災保険 |
仕事内容 | 沿岸/養殖漁業, 養殖漁業, 真鯛養殖 |
勤務地 | 三重県南伊勢町度会郡南伊勢町迫間浦792-8 |
勤務時間 | 7:00〜16:00(休憩1時間) |
休日休暇 | 土日(イベント出展の際は要相談) |
募集期間 | 2022年09月01日(木)~2023年03月31日(金) |
その他 | この求人は南伊勢町の「地域おこし協力隊制度」を利用しています。 就業・移住に際しての「住まいのサポート」については「お試し移住住宅(最大3ヶ月間)」と南伊勢町の空き家バンク制度を活用いただけます。 お試し移住期間に入居する住まいを探すことが可能です。 |
会社名 | 株式会社南勢水産 |
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選考方法 | ●募集条件 ① 生活の拠点を3大都市圏をはじめとする都市地域等から南伊勢町内へ移し、 住民票を移動することができる人 ※地域要件については、総務省が設定している基準による。 ② 地域活動に積極的に参加でき、行政や地域住民とのコミュニケーションが取 れる人 ③ 地域おこしに意欲がある人 ④ 普通自動車免許を持っており、運転のできる人 ⑤ 基本的なパソコン操作ができる人 ⑥ 南伊勢町内での起業・就業及び定住に意欲のある人 ●応募方法 下記の提出書類を南伊勢町役場まちづくり推進課へご提出ください。 ・応募申込書 ・応募用紙 ・住民票抄本 ・運転免許証の写し |
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